前回の記事でも触れた通り、出生率もジェンダーギャップ指数も低い日本と韓国。両国のもうひとつの共通点は、「M字カーブ」と呼ばれる女性の就労に関する問題。今回は「M字カーブ」が何を示すのかをお伝えし、この現状を作り出してしまっている企業が、企業視点で考えたときにどんなリスクを抱えているのかを探っていきます。

「M字カーブ」とは

日本の女性の年齢階級別労働力率を折れ線グラフで示すと、30歳代を底にしたM字型を描きます(図1)*1。これがM字カーブとよばれるもの。結婚や出産のタイミングで一度離職し、その後復職する女性が多いことを示しています。欧米諸国ではこのようなM字カーブはみられず、日本と韓国に特徴的な現象です*2。日本のM字カーブは徐々に底が浅くなってきており改善に向かっているとされますが、まだまだ解消はされていません。


図1 日本と韓国に特徴的なM字カーブ*1

一方で現在離職中ではあるものの、就業を希望している女性は少なくありません。労働力率に就業希望者の割合を足し合わせて、先ほどのように折れ線グラフを描いてみましょう。すると、M字カーブはほぼ解消されます(図2)*1。また、ここで足し合わせた就業希望者の数は303万人。日本経済はこれだけの人数分の労働力を損失しているのです。


図2 就業希望者を合わせるとM字カーブは解消される*1

M字カーブが解消されない原因は?

以上のデータからみると、日本の女性は一度出産で職場を離れるとなかなか復職できない現状にあるといえます。その原因は大きく3つ。第一に企業の問題、第二に家庭の問題、そして第三に保育制度の問題です。

企業の問題は、産休・育休という長期休暇をよしとしなかったり、長時間労働が賛美されたりする傾向が考えられます。家庭の問題は、家事や育児の負担が女性に偏っていること。保育制度の問題は、子どもが預けられないために女性が働けないという状況を作り上げてしまっていることです。いずれも解決しなければならない問題ですが、今回は企業の問題に着目。これらの解決がなぜ必要なのかを、企業側の視点で考えてみましょう。

子育てと仕事を両立させられない企業のデメリット

女性が子育てと仕事を両立できない状態であることは、実は企業にとって大きな損失を生むリスクを孕んでいるのです。リスクのひとつ目は、女性の人材流出によるコスト。ふたつ目は企業全体の生産性の限界です。

1) 女性の人材流出によるコスト

多くの企業で、20年前と比べると女性比率が増えていることでしょう。当然、女性の採用にかかるコストも増えていることになります。新卒採用でも中途採用でも、一人あたり数十万円以上。加えて採用後には教育への投資が必要です。こうしてコストをかけて採用し教育しても、女性が出産により離職してしまえばすべて無駄になってしまいます。さらに、離職した人材を補うための新たな採用・教育にもコストがかかります。

2) 企業全体の生産性の限界

女性が活躍する企業ほど、生産性が高く業績がよいことを示す研究結果がいくつも報告されています。たとえば、正社員の女性比率が高い企業は利益率が高いというデータ(図3)*3や、女性管理職比率が高い企業は利益率が高いというデータ(図4)*4。これらのデータから考えられることは、ワークライフバランスを取りやすく女性が活躍しやすい企業は、男性も働きやすくなり、企業全体の生産性が上がるということ。実際、女性が働きやすい職場は男性も働きやすいという意見はよく聞かれます*5,*6。なお、図3のデータは上場企業を対象にしたものです。というと一部の大企業のみの話と感じるかもしれません。しかし人員の限られた中小企業こそ、その限られた人員が活躍できる職場づくりが重要になるでしょう。


図3 正社員女性比率が高いと利益率が高い*3


図4 女性管理職比率が高いと利益率が高い*4

またワークライフバランスに関しては、その制度(フレックスタイム制度や短時間勤務制度)が整った企業ほど、正社員の女性比率の高さが利益率に、より顕著な好影響を与えることが示されています*3。このことから、ワークライフバランスに関する制度を導入しているのみでなく、実際に活用して子どもを持つ女性も働きやすい環境を実現できていることが重要であると考えられます。

以上のように、コストの面でも企業全体の生産性の面でも、子どもを持つ女性が働きやすく活躍しやすい企業になることは重要であるといえます。企業の生産性を高める努力をしていてもなかなか成果が上がらない、という企業は少なくないでしょう。そんな場合は、こういった職場づくりに注力してみると大きな成果が得られるかもしれません。

まとめ

日本は、結婚・出産のタイミングで離職する女性がまだまだ多く、いわゆるM字カーブはまだ解消されていません。この原因のひとつは、子どもを持つ女性が働きづらい企業環境にあると考えられます。そのような企業の体質は働きたい女性にとってマイナスになるだけでなく、企業にとってもコストや生産性の面でのリスクがあります。なかなか生産性向上の努力が実を結ばない企業は、女性にとっても働きやすい職場づくりに取り組んでみてはいかがでしょうか。女性だけでなく社員全員が働きやすくなり、よい結果が得られるかもしれません。

参考
*1 http://www.gender.go.jp/policy/suishin_law/pdf/jichitai_sanko.pdf 参考資料 [PDF形式:1099KB] – 内閣府男女共同参画局(2016年6月8日)
*2 http://souken.shingakunet.com/college_m/2015_RCM195_50.pdf 「ダイバーシティーと大学」について考える、吉武博通、リクルートカレッジマネジメント、195、2015年(2016年6月8日)
*3 http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/14j016.pdf 上場企業における女性活用状況と企業業績との関係 ― 企業パネルデータを用いた検証 ―、山本勲、RIETI Discussion Paper Series 14-J-016、2014年(2016年6月8日)
*4 http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g30627c2j.pdf 経済産業省、女性の活躍と企業業績、2003年(2016年6月8日)
*5 https://www.josei-jinzai.metro.tokyo.jp/case/ 東京都雇用就業部、女性の活躍推進人材育成事業、事例紹介(2016年6月16日)
*6 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20141117/273920/?rt=nocnt 日経ビジネスON LINE、「女性が生き生きしている職場は、男性も働きやすいはずなんです」(2016年6月16日)


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です