働く女性の活躍がなかなか進まない理由のひとつに「ジェンダーバイアス」というものの影響があることをご存じでしょうか。これまで自覚したことのなかった方でも、男女問わず、知らず知らずのうちにジェンダーバイアスの影響を受けた経験があるはずです。まずは、このジェンダー、ジェンダーバイアスについての説明から始めていきます。

ジェンダー、ジェンダーバイアスとは

性差の考え方にはセックスとジェンダーの2つがあります。このうちセックスは、生物学的な性差を指します。つまり、生まれ持った性差です。外面的な性と内面的な性が異なる性同一性障害の方などもいるため、完全に二分できるわけではありませんが、セックスは男性(オス)と女性(メス)に大別できます。一方、ジェンダーとは、社会的・文化的な性差のことです。先天的に決まっているものではなく、社会や文化の影響を受けて築かれ、男女についての考え方として染みついているものです。「男らしく」や「女性だから」などといった考え方は、ジェンダーの枠組みに自分や他人を当てはめているといえます。こういった考え方はジェンダーによる偏見(バイアス)であるため、ジェンダーバイアスと呼ばれます。ジェンダーバイアスは家庭や学校などでの経験から刷り込まれているため、無意識にこのような考え方をしてしまうのです。その刷り込まれ方としては、「男の子なんだから~」や「女の子なのに~」といったように言語化されている部分もあれば、「お母さんが家事をして、お父さんは外で働いている」という性別による役割分担のような、非言語のメッセージもあります。

男性のほうが強いジェンダーバイアスを持っている

ジェンダーバイアスを持っていると、自分や他人の行動を制限してしまう可能性があります。「女の子らしく、おしとやかにしないといけない」、「男の子がピンクのものを身に着けているなんておかしい」というような考えが自分の中にあったり、周囲からそういわれたりすることで、本当はできるはずのことも、なかなかできなくなることがあるのです。

では、ジェンダーバイアスの強さに男性と女性で差はあるのでしょうか。これについては、男性のほうが強い傾向があるようです。少し古いデータですが、2001年に行なわれた小学生を対象とした調査*1によると、男子のほうが女子よりもジェンダーバイアスのかかった考え方(「男子は女子よりも成績がよい」、「女子はおとなしくてやさしい方がよい」など)に対して、より強く同意することが認められました。中学生を対象とした調査*2でも、同様の傾向が認められています。仕事の上では男性のほうがより高い地位にある現状において、女性に対する男性からの強いジェンダーバイアスは、活躍したい女性に不利に働くと考えられます。したがって、女性が仕事で活躍できる社会を実現するためには、社会的な共通認識となってしまっている、正しいといえないジェンダーバイアスをなくしていくことが大切です。そのためには、ジェンダーについて、きちんと教育していく必要があります。

幼少期からのジェンダーについての教育が重要

ジェンダーバイアスは、幼少期から形作られていきます。実際に、幼稚園生でも既に、性別による役割分担の考えを持っているといわれています*3。したがって、ジェンダーバイアスの形成を抑制するためには、幼いうちからの教育が重要といえます。

ジェンダーバイアスを形成する場は、主に家庭と学校です。最も身近な家庭での教育が重要であることはいうまでもありませんが、それ以上に学校は重要なジェンダー教育の場といえます。なぜなら、家庭で目にする実例としての「男性」と「女性」は父母(および祖父母など)に限られるからです。自分の目にする実例しか知らなければ、その役割分担が当たり前だと考えるようになるわけです。加えて、国際的にも教育の場での男女平等が求められています。

こうしたことを受け、学校での教育はジェンダーバイアスを生まないように変化してきています。たとえば、それまで女子のみが履修していた家庭科は、1993年及び1994年以降、中学校及び高校で男子も必修となりました。また、名簿は男女混合名簿が主流となり、不必要に男女を分けることが減ってきています。

未だに根強く残っているジェンダーバイアス

しかしながら、未だにジェンダーバイアスを感じることは多くあるようです。私自身の経験でも、大学生のときに「女の子はいらない」と50代の男性教授に言われたことがあります。また、ある田舎の町の子どもたちに勉強を教えに行った際には、親御さんたちが「男の子は大学に行ってほしい。女の子は家にいてほしい。」と話しているのを耳にしました。私は高校時代に女子校に通っていたこともあり、こういったジェンダーバイアスを問題視し、女性が自律し輝いていくことを教えられていました。そして、少なくとも自身が受けていた教育においては、学ぶことに対してのジェンダーバイアスを体感したことがありませんでした。そのため、ジェンダーバイアスのかかった言葉を目の当たりにし、大きな衝撃を受けたことをはっきりと覚えています。ジェンダーを教育されていないことや、ジェンダーバイアスの根強い環境で生活していることによって、なんの違和感もなく、ジェンダーバイアスの中に人を当てはめて考えてしまうのだと実感しました。

私の体験以外でも、女性が「女の子なのに~」などと言われて苦労した体験は非常に多く聞かれます。それは、勉強や仕事で自分が望むように力を発揮する上では、女性のほうがジェンダーバイアスを感じ、それが実際の障害となることが多いからではないでしょうか。最後に、男性でも「男らしさ」を押し付けられることで苦労している人がいることにも言及しておきたいと思います。

まとめ

社会・文化的に形成されたジェンダーバイアスは、男女どちらの生き方にも影響を与えています。女性が仕事で活躍する上では、男性から女性に対するジェンダーバイアスは大きな障害となり得ます。このような状況を解決するためには、不必要なジェンダーバイアスを持たないよう、幼少期から教育していくことが大切です。

参考
*1 小学生のジェンダー形成, 多々納道子ら, 島根大学生涯学習教育研究センター研究紀要, 4: 23-34 (2006) http://www.ercll.shimane-u.ac.jp/journal/pdf/200603/tadano.pdf
*2 中学生のジェンダー観の形成要因, 多々納道子ら, 島根大学生涯学習教育研究センター研究紀要, 2: 15-27 (2003) http://www.lib.shimane-u.ac.jp/kiyo/b008/002/002.pdf
*3 教育現場におけるジェンダー, 多田憲治, 岩手大学英語教育論集, 13: 93-97 (2011) http://ir.iwate-u.ac.jp/dspace/bitstream/10140/4958/1/beeiu-v13p93-97.pdf


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